- 2014.09.18
Photographer三戸建秀
ポートレートを得意とし、雑誌、広告の分野で活動している三戸建秀さん。
ここ数年はデジタル一眼レフカメラを使った、ムービーの撮影も積極的に行なっている。
サンスターストロボから発売された、ソフトBOXにもビューティディッシュ(オパ)にもなる新製品「ビューティボックス XL」と、
ストロボと定常光がヘッドにジョイントされた「コンバインヘッド(NEW OCTA-C30G)」、1200wsが個別調光できる「Complete One」を使って、スチルとムービーを撮影。
同じセッティングでそのままムービー撮影できる、ハイブリッドな照明システムについて印象を訊いた。
ST:Yumi Kaneshiro Make:baku(Les Doigts management) Hair:Miyoko Koenuma(&'s management) M:Anastasia Sobol(Surge)
普段よく使う照明機材はありますか。
僕はストロボのメーカーに関しては、ほぼこだわりがないんです。
最近はマニュアルで撮ることが多いので、人物でもそんなにバシャバシャ連写する必要もないですし。特に8×10カメラを使う時にはストロボ使っても連写は不可能ですから(笑)、照明機材はどのメーカーの製品も使います。
むしろキヤノンなどの一眼レフを使うようになってから、ムービーも撮るようになり、アイランプを多用することが増えました。「カールツァイスのレンズとの相性は、定常光の方がいいのでは」と以前から思っていたので。
学生時代はローライフレックスを使っていて、窓からの光をローライで撮ると、無敵な感じだったんですよ。被写体は当時からヌードでしたけど(笑)。
ストロボを使って撮るのとは雰囲気が違うので、ヌードは定常光、仕事はストロボを普通に使うようになりました。
定常光と瞬間光の光質の差を、どのようにとらえていますか。
ストロボの光は、何千分の1秒だけ光が当たって、瞬間を切り取る感覚だと思いますが、定常光は光が折り重なって、被写体を浮かび上がらせている感じがします。それが言わば光の質感とでも言うのでしょうか? そういう違いを出しているように思います。ですが思い描いている目標、ゴールに持っていくために、照明機材を選択しますし、それよりも、どうやって何を写し取っていくか、ということに集中しています。
今回の引きの写真は、前と後から光を当てています。ドレスの素材が薄く、透けているので、バックライトをあてた方が、ニュアンスが出るんじゃないかと思いました。
「三戸=ヌード」のイメージが強いみたいですが、洋服着ていてもちゃんと撮れるんですよ(笑)。
今回の作品のテーマを教えてください。
"butterfly" です。ビジュアル的にも蝶が舞うようなイメージで、柄にインパクトがあって素材が軽いものをスタイリストと相談して決めました。この撮影の前にテストしたウエディングドレスでの習作が、レース生地だったじゃないですか(下写真参照)。あの時は、あえてスローシャッターでブラしましたが、単色の生地だと動きがわかりづらく、その経験から絵柄や素材感を吟味しました。
ちなみに、"butterfly" って英語では「蝶々みたいにフワフワ移り気な女」っていう意味もあるんですよ(笑)。まあ、なんて言うか開放感のある女性とでもいいますか、そんなのを撮ろうと思いました。動画でドレスが揺れ動いてるのは、女性の心が揺れ動いていることのメタファーです。
Make:Keiko Muneoka Hair::Daisuke Ishigaki (Les Doigts management) Dress: Gazzara Design Dress Model:Lennie
引きのカットは、手前と奥からの2灯ライティングです。
そうですね。今は、カメラも高感度が普通に使えるようになったし、カールツアイスで撮るときはそんなに絞らないんですよ、僕。なんで2400Wsとか要らないですよね。これも、1200WsのComplete Oneから2灯出しですが、個別調光は便利でした。
スチルの方は、スカートの動きを止めたかったので、「Speed Mode」にして、閃光速度1/5200秒で撮影しています。
カット選びは悩みました。スカートの形は毎回違うし、もっと広がっているカットもあったんですけどね。流れを感じるのがいいなと思って。
この衣装は柄がはっきりしているので、スカートを部分的にレタッチして継ぎ足すとか、そういう作業はしていません。「一発写真」です。
手の動きが、スカートの流れに繋がっていくようなニュアンスが大事なんですけど、そういう、「普通のポーズとちょっと違う感じ」にも、モデルがうまく対応してくれたと思います。
寄りの「ビューティ&スモーク」のカットは、ピントをちょっとだけ深めに欲しかったのと、煙のニュアンスをなるべく捉えたかったので、絞った分、光量を上げました。
秒3~4コマで連写しまくったのですが、ほぼついてきてくれました。
NEW OCTA-C30Gコンバインヘッド
ストロボ入力MAX3000Ws、ハロゲン差し込み型500W-1000W
価格:128,000円(税別)
ストロボの発光管の中央にハロゲンランプ1000Wがついた「コンバインヘッド」はどうですか。
あのヘッドは素晴らしい! です。初めて使ってみて「スゲェ〜」って思いました。ほんとに。
あるカタログの撮影で、プロジェクターで映写した背景を作ったことがあったんですね。そしたら暗くて。バックが暗い分、モデルにはブルーアイランをあてて、そのままムービーも撮影した事がありました。
ただ仕事でアイランプって、やっぱリスキー過ぎるんですね(笑)。熱も凄いし。
コンバインヘッドは、光源の位置が変わらず、ストロボと定常光が使えるわけですから、「スチルフォトグラファーがムービーを撮るためにある機材」っていう感じがしました。
アイランプは便利ですが少しお手軽な印象もありますね。
いやもう現場ではもろに感じます。とにかく熱いし(笑)。
僕は、白い透過の傘に、アイランを3個入れて、それで自分の部屋でヌード写真を撮ったりするんですよ。光はすごく綺麗なんですが、部屋の温度が半端なく上がる(笑)。
コンバインヘッドの場合、ハロゲン出力を500Wに落としておいて、本番の時だけMAX1000Wに上げられる。そうすることで熱も抑えられるし、モデルへの負担も減るのでほんとにいいですよ。
サンスターさん、さすが日本の企業だなと。ナイスアイデアです。
小型のHMIもありますが、ストロボ機材のようなライティング・アタッチメントはないじゃないですか。大空間での撮影でなければ、この製品は最適だと思います。
引きと寄りでは、ライトの位置もアタッチメントも変えて撮影されていました。
ストロボと定常光が一体になっている割にはヘッドがコンパクトなんで、機動性がいいですよ。
ライト位置を変えても、それでフィックスすれば、そのままスチルとムービーが撮れるのは効率もいい。
ミュージシャンのPV(ムービー)と、ジャケット(スチル)の撮影を、スチルフォトグラファーがワンパックで受けるとか(笑)。そういう用途に向いてますよ。
コンバインヘッドが2灯あれば全然余裕です。
フォトグラファーで「ムービーの仕事に繋げたい」と思っている人は、多いと思うんですよ。そういう時に、この機材を使ってムービー作品を撮れば、プレゼンできますよね。
あと撮影自体が早く終わるのもいいです。
セッティングを変えている間にモデルの休憩を挟んでしまうと、その前後で同じ動きをしているのに、同じ動きに見えない時があるんです。
それが、「スチルとムービーが同じライティングで出来る=シームレスで撮影ができる」、ので、モデルもそのままのテンションで持っていきやすい。
結果的に、撮影が早く終わるんですね。
ストロボを使わなくても、ハロゲンの定常光だけでスチルとムービーの両方を撮ることもアリです。それだと完璧に同じ色温度で撮れて、めちゃくちゃ便利だと思います。
デジタル(スチル)カメラでムービーを撮る人に最適な製品ですか。
そう思います。
スチルフォトグラファーは、ライティングが上手い人が多いので、その技術をムービーに活かせるのは強みになると思いますね。
できれば今度、ダンサーとかも撮ってみたいです。
寄りの写真は、タバコをふかした「大人ビューティ」でした(笑)。
そうですね(笑)。
寄りの撮影は、オパとして使える「ビューティボックス」を使いました。あれも天才的アイデア商品ですよ。
昔、他社で似たような製品を持っていた事がありましたけど、中央の反射板もなかったし、何より骨を1本1本差すタイプだったので、手間がかかりました。
それが普通の傘みたいに、バシッと一瞬で広げられて、折り畳める。収納性とこの軽さはロケにもいいですね。
男の1灯ライティングで、基本一発写真です(笑)。
全面にディフューザーを貼って、BOXライトにもできますが、少し平坦な光になりがちなので、ここではビューティディシュ(オパ)として使いました。
予想では、もっとギラッとするのかなって思っていましたが、光の方向性はあるものの、傘の面積が広いので、ちょうどいい光質でした。
光のグラデーションは、すごく大事だと思っていて、ライトを近づけるほど、その特長が出やすいんですよね。男も女もかっこよく撮れるアタッチメント。これなら1灯でなんでもいけます。
寄りのムービーは、「ひたすらタバコを吸っている」カットの繰り返しですが、かなり気になります(笑)。
映像って、何となく編集のセオリーがあるじゃないですか。性格が天の邪鬼なので、それがいやになる時があるんです(笑)。
「カメラが下からなめて → 瞳のアップで瞬き → 引きカット(ヘアーに風入り)」パターン。それより「どのカットもかっこ良くてセレクトできない! だからそのまま繋げました!」的な、ある意味スチルフォトグラファー思考の編集です(笑)。ひたすらストレートボールを100球投げ続けるみたいな(笑)。
30秒のムービーならそれもアリだと思って、編集しました。
スチルフォトグラファーの立場からすると、ムービー用の機材は「でかい」「大げさ」というイメージがあると思うんです。「セッティングが大変」とか。でも極端な話、今回の機材だと一人でも扱えます。
デジタル一眼レフカメラで、スチルからそのままムービー撮影ができるようになり、今回ように光軸が変わらないまま、ストロボと定常光が撮れるライトによって、静止画と動画のハードルはほぼなくなりました。あとは何を表現したいかだけ。
このハイブリッドな照明システムは、今後ますます普及していく機材だと思います。
メイキング
-
全身カットの撮影。メインはフロント右からの大型リフレクター(SCソフトライトレフ680)1灯。
薄い生地のドレスに光を透過させるために、左サイド後方からもトレペ越しに照射。黒ボードでハレキリ。
スタッフがドレスを持ち、空気を入れるようになびかせている。 -
俯瞰から見た様子。ライトの位置がよくわかる。最初メインライトにトレペを貼っていたが、後半はソフトライトレフ用の
ディフューザーを使用。耐熱素材、ゴム付きなので被せるだけ。繰り返して使えるので環境にもやさしい。 -
スタッフでライトやドレスのなびき方を確認しながら進める。
ジェネはComplete Oneを1台使用。Speed Mode(閃光速度優先)にしてメインライトは1/5200秒で発光、
ドレスの動きを止めている。 -
後半は「スモーク&ビューティ」カットを撮影。アタッチメントを「ビューティボックスXL120」に変更する。
傘のように折り畳め、ソフトボックスにも、ビューティディシュ(オパ)的な使い方もできる。
俯瞰からだと、モデルに近い位置から照射しているのがよくわかる。 -
サンスターストロボのコンバインヘッドは、ストロボに1000Wハロゲンランプがついたハイブリッド製品。
(ハロゲンランプ使用時は、別途AC100V電源に差し込む必要あり)
光軸が同じなので、ライティングを変える必要がない。
右/撮影中の三戸さん。ムービー撮影用のモニタをキヤノンEOS 5DMark3につけ、スチルからシームレスでムービーを撮影。
- Complete One
- ●主な仕様
- 使用灯数:3灯式
- 調光:1~3回路調光
- Full~1/64調光(1/10step):Color Mode(色温度優先)時
- Full~1/128調光(1/10step):Speed Mode(閃光速度優先)時
- 色温度変化:200k以内(Color Mode時)
- 調光方式:シリーズカット調光+電圧調光
- 最速閃光速度:1/11000秒 Speed Mode(閃光速度優先)時
- チャージタイム(60Hz):Quick:0.01~1.8秒 Slow:0.04~6.4秒
- 2or3回路調光時各チャンネル光量決定後、比を固定したままUP,DOWNが可能。
- 大きさ:153(縦)×209(横)×210(高)mm
- 重さ:4.7Kg
- 価格:448,000円(税別)
- 発売:2013年10月21日
- 株式会社サンスターストロボ
http://sunstarstrobo.jp/
- ビューティボックスXLシリーズ
- ●主な特長
- 「ビューティボックスXLシリーズ」は、収納ケースから取り出し傘を広げるようにワンタッチで組み立て、硬めの光をつくるビューティディッシュ(オパライト)として使用の場合は反射板を、柔らかな光をつくるソフトボックスとして使用の場合はディフューザーを取り付けるだけで使える。
120cm、90cmの2種類。両サイズとも、別売のファブリックグリッドが取付け可能。 - 価格:XL120/54,000円(税別) XL90/ 51,000円(税別))
- 株式会社サンスターストロボ
http://sunstarstrobo.jp/
三戸建秀 Photographer
1978年生まれ。2001年渡米。
NYにて画家千住博氏と写真家宮本敬文氏のアシスタントを経て、2005年帰国後独立。
Fashion Institute of Technology卒業。
ポートレートやファッションを主に撮影。ヌード作品の写真展なども精力的に開催。
http://www.kenshupix.com
- 2018.06.29 「SHOOTING PHOTOGRAPHER + RETOUCHER FILE」連動企画 レタッチ、CG表現の現在とこれから
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- 2018.04.18Photographer / Image Director shuntaro
- 2018.03.17Photographer 宇佐美雅浩 「Manda-la in Cyprus」
- 2018.03.16 Art Potluck(アートポトラック)緊急座談会
- 2018.03.11Photographer 「The Professional Voice」vol.9 井上浩輝
- 2018.02.18Timelapse / Hyperlapse Photographer 「The Professional Voice」vol.8 清水大輔
- 2018.01.24Photographer 皆川 聡
- 2017.12.26Photographer 「The Professional Voice」vol.7 小川晃代
- 2017.11.27Photographer 「The Professional Voice」vol.6 土屋勝義
- 2017.11.10Photographer 星野耕作
- 2017.11.07Photographer 「The Professional Voice」vol.5 島田敏次
- 2017.10.13Photographer 瀧本幹也
- 2017.09.22Photographer 「The Professional Voice」vol.4 桃井一至
- 2017.09.15Photographer 「The Professional Voice」vol.3 勅使河原城一
- 2017.09.11Photographer 「The Professional Voice」vol.2 安澤剛直
- 2017.08.28Photographer 「The Professional Voice」vol.1 池之平昌信
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- 2017.07.27Photographer 中野敬久
- 2017.06.25Photographer 橋本英之
- 2017.03.16Photographer 奥 彩花
- 2017.02.17 EXCERIA Ambassador Member's Talk
- 2017.01.25写真家/ビジュアルアーティスト Nozomi Teranishi
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テーマ作りから具体的なビジュアル制作の苦労と面白さ、見る人の脳内にその欲求を掻き立てる「脳よだれ展2018」の見どころを訊いた。
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Photographer / Image Director
shuntaro「ドローン・ライティング」は 選択肢の一つとして当たり前になっていくと思う